当たり前のように、ご飯を食べていた。
それが、ある日を境に「怖いもの」になった。
胸の奥にチクっと走る違和感。
誰にも言えなかった痛み。
高校時代、私の体は静かに悲鳴をあげていた。
そしてその声に、私はずっと気づかないふりをしていた。
春が終わり、夏が近づいてきたころ。
体に、少しずつ変化が現れ始めた。
なんだか、胸が痛い——そんな気がしていた。
水を飲むとき、胸の奥がチクリとする。
最初は「気のせいかな」と思っていたけれど、何日経っても治らなかった。
炭酸飲料を飲むと、はっきりと痛みを感じる。
そうなると、食べるたびに「また痛くなるかもしれない」と思って、
胸のあたりにばかり意識が向くようになっていった。
「もしかして、大変なことになっているのかもしれない」
そう思いながらも、病院に行くのが怖くて、
私は誰にも言わずに、何ヶ月もその痛みを隠し続けた。
夏休みが近づくころ、痛みはますます強くなっていった。
そして、あの日、それは突然やってきた。
お昼ごはんを食べていたときのこと。
いつものように、痛みに注意しながら、ご飯を口に運び、飲み込んだ。
その瞬間——ウッ……!
胸のあたりで、ご飯が詰まった。
両親は仕事に出ていて、私は一人きり。
どうしていいか分からず、苦しくて、詰まったご飯を吐き出した。
「これは、本当にやばい」
そう思った。けれど、それでも私は誰にも言わなかった。
それから、食事がどんどん怖くなっていった。
食べるスピードが遅くなり、食べる量も自然と減っていった。
ある日、体育祭の練習中に、強い倦怠感に襲われた。
それでも何とかその場は乗り越えたが、
帰り道、自転車をこぐ脚に、もう力が入らなかった。
「限界だ」
自分の体が、そう叫んでいるのが分かった。
家にたどり着くころには、もうふらふらで、
玄関に倒れ込むようにして、やっとの思いで言葉を絞り出した。
「お母さん、病院に連れて行って…」
今まで、ずっと隠していたことを、私は全部話した。
症状も、痛みも、ずっと抱えていた気持ちも——。
口に出して話すことで、ようやくその重さを手放せた気がした。
病院でバリウム検査を受けた結果、私の食道は、まるで砂時計のように一部が細くなっていて、そこに食べ物が詰まっていた。
すぐに別の病院を紹介され、翌日には胃カメラの検査を受けた。
食道が細くなっている部分には潰瘍ができていて、それが原因で食道が狭くなっていた。
原因ははっきりとは分からなかったけれど、
その部分に潰瘍が「できては治り、できては治り」を繰り返したことで、内部がケロイド状になり、
食道の筋肉を引っ張ってしまっていたのだという。
そして、医師からは「このまま入院しましょう」と告げられた。
自分の体がそんなふうになっていたなんて——
ここまで悪化していたなんて、正直、信じられなかった。
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